東京地方裁判所 平成10年(ワ)16549号 判決
原告 有限会社カーニバル・アール
右代表者代表取締役 橋本龍兒
右訴訟代理人弁護士 高階雅芳
被告 株式会社角川春樹事務所
右代表者代表取締役 角川春樹
右訴訟代理人弁護士 大木丈史
同 堀晶子
主文
一 被告は、原告に対し、金一六七二万五四八三円及びこれに対する平成一〇年七月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
四 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一億六〇九八万六一〇〇円及びこれに対する平成一〇年七月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告に対し、雑誌の編集業務委託契約に基づく報酬又は右契約解除によって被った損害の賠償(その金額は、後記三1(一)(2) の一三二六万円及び後記三2(一)(2) の一億四七〇一万円)並びにそれ以外の手数料(後記二5(一)の七一万六一〇〇円)の合計額一億六〇九八万六一〇〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年七月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。
二 争いのない事実
1 旧「P!style」の創刊と休刊
被告は、平成七年九月、「流行にあった商品を読者に提案し商品を通信販売で購入できる雑誌(通販業者のカタログとは異なり雑誌自体に魅力がある雑誌)とのコンセプト」の流行通販マガジンである「季刊P!style」(以下「旧雑誌」という。)を創刊した。掲載商品の販売業務(いわゆる「物販」)の担当は、当初は被告であったが、その後、平成八年秋期号(同年六月二一日発売)からは、商品の制作・仕入れは被告が担当するが、商品の受注・配送は、訴外東京物流サービス株式会社(以下「東京物流」という。)が担当することとなった。しかし、被告は、平成九年三月、旧雑誌を休刊にした。
2 「P!style」のリニューアル創刊と編集業務委託契約
(一) 平成九年五月ころ、被告の専務取締役であった下斗米一訓(以下「下斗米」という。)は、橋本龍兒(以下「橋本」という。)に対し、旧雑誌を「隔月刊P!style」(以下「本件雑誌」という。)としてリニューアル創刊するための協力を依頼し、橋本は右依頼を受けることとして、同年八月一三日に、橋本を代表取締役、原信治(以下「原」という。)を取締役とし、書籍、雑誌の編集、出版及び企画、販売を主たる目的とする原告が設立された。
(二) また、本件雑誌の物販を担当する会社として、東京物流の専務取締役であった明下雅美を代表取締役とする株式会社ジェマ(以下「ジェマ」という。)が同年七月一八日に設立された。ジェマと被告との間では、ジェマは被告が発行する本件雑誌の通信販売における物販事業を完全受注する条件として、被告に対し、毎号当たり二〇〇〇万円のスペース提供料を支払うこと、被告は、毎号八〇ページ相当のスペースをジェマの取り扱う通販商品の紹介に提供すること、契約期間を同年七月一日から平成一二年七月一日までとすることなどを内容とする契約が締結された(以下「ジェマとの契約」という。)。
(三) そして、原告と被告との間では、同年八月一三日に、次の内容を含む編集業務委託契約(以下「本件契約」という。)が締結された。
(1) 業務の内容 本件雑誌の企画、取材、原稿作成、校正割付等の編集業務全般(総ページ数一六四ページのうち、実編集ページ数は、一二〇ページ)
(2) 報酬 平成九年一〇月以降毎月一五日に九〇〇万円(消費税込みで九四五万円、なお、本件雑誌は、隔月発行であるため、一号当たりの金額は一八〇〇万円(消費税込みで一八九〇万円)となる。)
(3) 有効期間 平成九年八月一六日から平成一二年八月一五日まで(三年間)
3 本件雑誌の発行と支払額
(一) 創刊号(一二月号、平成九年一一月八日発売)の編集に対し、<1>平成九年九月一六日に四七二万五〇〇〇円、<2>同年一〇月一五日に四七二万五〇〇〇円、<3>同年一一月一七日に九四五万円が支払われた(合計一八九〇万円)。
(二) 第二号(三月号、平成一〇年一月二一日発売)、実編集一六八ページに対し、<1>平成九年一二月一五日に九四五万円、<2>平成一〇年一月一四日に九四五万円が支払われた(合計一八九〇万円)。
(三) 第三号(五月号、平成一〇年三月二〇日発売)、実編集一七八ページに対し、<1>同年二月一三日に九四五万円、<2>同年三月一三日に九四五万円が支払われた(合計一八九〇万円)。
(四) 第四号(七月号、平成一〇年五月二一日発売)、実編集一五二ページに対し、<1>同年四月一七日に九四五万円、<2>同年五月六日に三三六万円(合計一二八一万円(一二二〇万円に消費税分を加えた額))が支払われ、<3>同年五月一六日に一二八一万円が支払われた。
(五) 以上のほか、<1>平成一〇年一月三〇日に三一五万円、<2>同年三月二四日に二五〇万円、<3>同月三〇日に六五〇万円が支払われた(その趣旨について争いがある。)。
4 本件雑誌の休刊
平成一〇年五月二六日、下斗米は、本件雑誌の休刊を発表し、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
5 手数料債権と立替金求償債権との相殺
(一) 原告は、被告に対し、本件雑誌の編集業務以外に、七月号ハワイ特集広告営業コミッション料として、四五万三六〇〇円(消費税込み)と七月号営業開発部扱い記事広告制作料として、二六万二五〇〇円(消費税込み)の合計七一万六一〇〇円の債権を有していた。
(二) 被告は、別紙「有限会社カーニバル・アールへの立替金請求一覧」記載のとおり、九二万四一九七円の立替金求償債権を有していた。
(三) 被告は、平成一〇年一一月一三日の本件第三回口頭弁論期日において、右(二)の債権と右(一)の債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
三 争点
1 増ページ分の報酬請求の可否
(一) 原告の主張
(1) 原告と被告との間には、本件雑誌の実編集ページが増えて一二〇ページを超えた場合には、被告は原告に対し増ページ一ページ当たり二〇万円(消費税込みで二一万円)を支払うとの合意があった(創刊号については、一六ページの増ページに対し、前記二3(五)<1>のとおり、一五ページ分三一五万円の支払があった。)。
(2) そのため、原告は、被告に対し、増ページ分の報酬として、以下の未払額合計一三二六万円支払を請求することができる。
ア 第二号(三月号)については、増ページ四八ページのうち、四五ページ分として、前記二3(五)の<2>及び<3>の合計九〇〇万円が支払われたが、残三ページ分(六三万円)と右九〇〇万円に対する消費税相当額四五万円の合計一〇八万円が未払である。
イ 第三号(五月号)については、増ページ五八ページに対する報酬(消費税込み)一二一八万円が未払である。
(二) 被告の主張
(1) 増ページ一ページ当たり二〇万円を支払うとの合意は存在しない。被告は、必要かつ相当な範囲内の増ページであることを原告側が明らかにしたページについては、一ページについて二〇万円を基準として報酬を支払うことにしていたにすぎない。
(2) 前記二3(五)の<1>ないし<3>の支払は、増ページ分に対する支払ではなく、原告の資金繰りに配慮したための支払にすぎない。
(3) 仮に、原告主張の合意があったとしても、原告は、ジェマの掲載希望商品が多いという口実で、意図的に編集ページを増やして被告に増ページ分の報酬を支払わせることを企て、強引に増ページで発刊させたから、増ページ分の報酬を請求することは信義則に反する。
2 残存契約期間中の報酬請求の可否
(一) 原告の主張
(1) 原告と被告とは、第四号(七月号、平成一〇年五月二一日発売)以降の編集業務に対する報酬を同年四月以降月額一二二〇万円(消費税込みで一二八一万円)に増額し、増ページ分に対する報酬の支払はやめる旨の合意をした。
(2) 本件契約は、期間を三年間とする準委任契約類似の継続的な契約であり、一方的解除は制限される。そのため、原告は、被告に対し、残存契約期間のうち、一年間分の報酬である一億四七〇一万円を請求することができる(一二二〇万円の一二か月分一億四六四〇万円に、平成一〇年六月分の報酬に対する消費税相当額六一万円を加算した金額)。なお、編集業務を行う債務については、被告がその受領を拒絶しているため、原告は履行することなく、その対価を受領できる。
(3) 本件雑誌は第三号(一五万一〇〇〇部)から第四号(一五万八三〇〇部)にかけて七三〇〇部増刷されているのであって、売上不振はなかったし、編集上のミスは一切ない。本件雑誌が休刊となったのは、ジェマからのスペース提供料の入金がなかったことが原因であって、原告側には原因がない。
(二) 被告の主張
(1) 本件契約は、請負契約類似の無名契約で、継続的契約であるが、以下の(2) ないし(5) のとおり、原告に債務不履行があったから、これを解除することができるし、以下の(2) ないし(5) の事実によれば、原告には被告との間の信頼関係を著しく破壊すると評価される行為があったということもできるから、本件契約の解除は有効である。さらに、約定の解除権(甲六の一一条)、民法六四一条の類推適用によっても、解除が認められる。そして、次の(2) の事実からすると、原告の請求は、信義則にも違反する。
(2) 前記1(二)(3) のとおり、原告は、意図的に編集ページを増やした。その結果、採算分岐点が上昇し、本件雑誌を発行しても採算がとれなくなった。
(3) 本件契約においては、原告は当然に売れる雑誌を編集すべき債務を負うが、平成一〇年三月三日に他社から創刊された対抗誌「Look!s」に比較して、本件雑誌の売上げが不振であることが明らかとなった。
(4) 本件雑誌の編集には、売上不振の原因となる問題点があった。例えば、<1>本件雑誌の表紙は、タイトルの文字の色や大きさに工夫がなく、また、写真もインパクトに欠けるため、購買客の注目を引くものではないし、<2>掲載されている商品の写真が、実際の商品と違っていたり、商品の形状、細かなデザイン、色、大きさが分からないものであったり、<3>商品である時計の写真では、針の位置をバランス良く見せる一〇時一〇分の位置にしなかったり、<4>高価な商品を他の商品と混合して掲載し、高級感を損なわせた。
(5) 原告は、被告代表取締役が、第二号以降は、表紙写真決定前に、橋本の案と、モデル一人のブレストアップ(胸より上が大きくクローズアップされた写真)の案を提示するように指示したにもかかわらず、これに従わなかった。
(6) なお、第四号の報酬が月額一二二〇万円となったのは、第四号についてのみ暫定的に行ったことであって、その後の報酬がその金額となるものではない。
3 損害賠償請求の可否
(一) 原告の主張
本件契約の解除が仮に有効であり、前記2(一)の報酬請求が認められないとしても、原告は被告に対し、次の損害賠償請求をすることができる。
(1) 予備的主張(その一)
本件契約は、継続的契約であるため、報酬相当額(一二二〇万円)をもって毎月の損害賠償額と予定していた。原告は、本件契約の残存期間のうちの一年分の一億四六四〇万円の限度で、損害賠償の請求をすることができる。
(2) 予備的主張(その二)
一か月当たりの実績粗利(五一八万六八一一円)に本件契約の残存期間二七か月を乗じた金額(一億四〇〇四万三八九七円)の請求をすることができる。
(3) 予備的主張(その三)
解除時点(平成一〇年五月)の原告の一か月当たりの取締役報酬及び給与総額(三二〇万円)に本件契約の残存期間(二七か月)を乗じた金額(八六四〇万円)の請求をすることができる。
(二) 被告の主張
(1) 右2(二)のとおり、本件契約の解除は、原告の債務不履行ないし信頼関係を著しく破壊すると評価される行為があったために行われたもので、原告の損害賠償の請求は認められない。
(2) 仮に、原告の得べかりし利益を賠償すべき場合があるとしても、その期間は相当な期間に限られるべきで、雑誌出版業界においては、その期間は零か、最長でも二か月を超えない期間である。
4 弁護士費用に関する原告の主張
原告は、被告の対応が不誠実で、本件訴訟における主張が不当であるから、認容額の合計額が一億四六四〇万円を超えない限度で、認容額の一〇パーセントを弁護士費用として請求することができると主張する。
第三争点に対する判断
一 争点1(増ページ分の報酬請求の可否)について
1 証拠(甲六、一〇ないし一二、一七、二〇、二六の1、二八の1、乙一、二四ないし二六、証人下斗米、同原信治、原告代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件契約を記載した「編集業務委託契約書」と題する書面(甲六)には、増ページ分に対する支払報酬についての条件が記載されておらず、本件契約に基づく業務は右の点についての合意がないまま開始された。なお、本件契約では、右の点も含め、細部の条件が調整できなかったため、右契約書には、記名・押印もされず、本件契約については、契約書が作成されていない。
(二) 創刊号(平成九年一一月八日発売)について、ジェマが大量の商品の掲載を要望し、被告営業開発部と原告においては、ジェマの要望を押さえることができなかったため、編集を担当する原告においては、増ページをせざるを得ないとの判断に至った。そして、橋本と原が、同年九月中旬ころ、実編集の増ページについて下斗米に対し相談したところ、下斗米は、増ページ分の報酬についてはなんとかすると述べた。
(三) そのころ、橋本は、自己の下で「編集デスク」という立場で編集業務に従事していた出来佐知子(以下「出来」という。)に対し、「増頁OK、JEMAのせいにして制作費上乗せさせる」と記載したファクシミリを送信した。
(四) その後、橋本と原は、下斗米から、増ページについては、一ページ当たり二〇万円を基準として報酬を支払うが、編集側の都合で出した増ページに対しては支払わないとの提案を受け、これを了承した。
(五) その結果、創刊号の実編集ページの増加一六ページのうち、一五ページ分三〇〇万円(消費税込みで三一五万円)が支払われることとなり、原告が被告に対し、平成一〇年一月一四日付け請求書によって右金額を請求し、同月三〇日に同額が支払われた。
(六) 同様に、第二号(同年一月二一日発売)の実編集ページの増加四八ページのうち、四五ページ分の九〇〇万円の報酬が支払われることとなり、同年三月二四日に二五〇万円、同月三〇日に六五〇万円の合計九〇〇万円が支払われた。
(七) 第三号(同年三月二〇日発売)については、実編集ページの増加五八ページが生じたが、右の増ページに対する報酬の支払については、原告、被告間において、明確な合意が成立していない(その後、本件雑誌は、同年五月二六日に休刊となってしまった。)。
(八) 第四号(同年五月二一日発売)については、同年四月一日までに、原告と被告間に、本件契約の報酬月額九〇〇万円を一二二〇万円(消費税込みで一二八一万円)に増額し、その代わり、増ページ分はその中でまかなうとの合意が成立したため、原告は被告に対し同日付けの請求書により右金額を請求し、前記第二、二3(四)のとおり、同年五月六日までに合計一二八一万円が支払われ、同月一一日付けの請求に対し同月一六日にも同額が支払われた。第四号の実編集ページの増加は、三二ページであって、右の報酬金額は、増ページ分一ページを二〇万円として算定した金額に一致することとなった。なお、増ページ数が第三号に比較して減少したのは、原告において、ジェマの協力を得られるようになったためである。
2 証人原信治は、その陳述書(甲二八の1)において、下斗米から、増ページ分については、一ページ二〇万円とするとの提案を受け、橋本と原は、これを了承した旨記載している(なお、証人尋問においては、「基本的には、最終的には一ページあたり二〇万という数字ですね。」との証言をしている(証人調書二ページ)。)。
しかし、証人下斗米は、右の二〇万円という数字は、一つの基準値にすぎず、また、「編集サイドの増ページに関しては、支払わないという考えでおりました。」(証人調書五ページ)との証言をしていること、橋本自身が、その本人尋問において、「増ページの報酬については、常々問題になっていたというか、いろいろ交渉していたのですけど、曖昧のまま常に爾後爾後ということだった」(平成一一年九月七日の本人調書一三、一四ページ)との供述をしていること、創刊号について、増ページが一六ページであったのに、原告は一五ページ分しか請求していないこと(甲一〇、なお、第二号と第三号の増ページ分について原告はその請求書を証拠として提出していない。)を考慮すると、増ページ分について、一ページ二〇万円を支払う旨の確定的な合意があったと解することはできず、右の原信治の陳述書の記載は直ちに採用することができない。
3 他方、証人下斗米は、前記1(五)の三一五万円と同1(六)の九〇〇万円の各支払は、原告が資金的に困窮してきたため、「仮払」したものである旨の証言をし、その陳述書(乙二五)にも、右の支払が、原告の資金繰りに配慮した資金援助的な支払(仮渡金)であるとの記載をしている。また、被告において、経理業務を担当していた永井充利もその陳述書(乙二四)に、右の証言等に沿う記載をしている。さらに、原が平成一〇年一月に被告あてに作成した書面(乙二六)には、原告が一月末に五〇〇万円余り資金が不足し、「経理破綻状態を迎える」こと、当座の必要資金を原告からの借入れの形で乗り切ることなどを含む提案を行うことが記載されている。
しかし、証人下斗米も、増ページについては、一ページにつき二〇万円を基準値として支払うと述べたこと自体は認めているし、また、実際に編集側の都合で増ページとなった部分が何ページあったのかについて判断することはできない旨の証言もしている。さらに、原が作成した右の文書(乙二六)中にも、増ページ分について一ページ二〇万円で換算して請求している部分もある。
そうすると、前記1(五)の三一五万円と同1(六)の九〇〇万円の各支払は、単に、原告の資金繰りのために行われた資金援助的な支払(仮渡金)であったと解することはできず、むしろ、一ページ二〇万円という基準に従って、原告、被告間において、創刊号と第二号の増ページに対する支払分として定められた金額であったと解されるのであって、前記「仮払」をした旨の証人下斗米の証言等は採用することができない。
4 そこで、以上の認定、判断を前提に、原告の被告に対する増ページ分の請求が認められるか否かについて検討する。
(一) 第二号について
本件雑誌の増ページ分に対する支払の合意は、前記1(四)のとおり、一ページ二〇万円を基準とするものであるが、右2のとおり、その金額が確定的に定められたものではなく、二〇万円を基準として、原告、被告間において個別に定められる金額によって支払がされるものであったと解することができる。
そして、前記1(六)の九〇〇万円は、その金額が、一ページを二〇万円として算定した第二号の増ページ分(四八ページ)の金額九六〇万円(消費税込みで一〇〇八万円)に近い金額であるから、右増ページ分に対する支払金額として、原告、被告間において定められた金額であったと推認することができる。原告からは、右増ページ分に対する請求書が提出されていないため、右九〇〇万円を超える金額を原告が請求していたか否かも明らかではなく、右の推認を覆すに足る証拠はない。
そうすると、第二号の実編集ページの増ページが四八ページであっても、それに対する報酬としては、既に支払われた九〇〇万円以外に更に支払うべき根拠はないというほかなく、第二号の増ページ分に対する原告の請求は理由がない。
(二) 第三号について
前記1(七)のとおり、第三号の実編集ページの増加五八ページについては、報酬支払の明確な合意が成立しないまま、本件雑誌が休刊となったことが認められる。
しかし、前記1(四)のとおり、増ページ分に対する報酬の基準は一ページ二〇万円であること、前記1(四)のとおり、編集側の都合による増ページに対しては支払わないとされていたものの、前記3のとおり、下斗米自身が、編集側の都合による増ページとなった部分が何ページであるかの判断はできない旨の証言をしていること、前記1(五)及び(六)並びに前記3のとおり、創刊号と第二号については、増ページ一ページにつき二〇万円を基準としてそれに近い金額が支払われたと考えられること、前記1(八)のとおり、第四号についても、増ページ一ページについて二〇万円として算定した金額と一致する金額が支払われたことを考慮すると、原告、被告間には、増ページ分について具体的にいくらを支払うとの明確な合意が成立しない場合にも、原則として、増ページ一ページについて二〇万円で算定した金額を支払うとの暗黙の合意が成立していたと見るべきで、第三号について、原告側の都合による増ページの事実があったことを認めるに足る証拠がない以上、一ページ二〇万円で算定した一二一八万円(消費税込み)が支払われるべきである。
したがって、右金額の支払を求める原告の請求は理由がある。
5 信義則違反の主張(争点1に対する被告の主張(3) )について
(一) 橋本が、平成九年九月中旬ころ、出来に対し、「増頁OK、JEMAのせいにして制作費上乗せさせる」と記載したファクシミリを送信したことは前記1(三)のとおりである。
(二) 他方、証人下斗米は、その当時、橋本や原が増ページをたくらんでいるというような印象は受けなかったとの証言(証人調書三六ページ)をしている。また、ジェマが大量の商品の掲載を要望し、被告営業開発部と原告においてはその要望を押さえることができなかったため、原告において、増ページをせざるを得ないと判断したことは、前記1(二)のとおりである。しかも、前記1(二)のとおり、下斗米が「なんとかする」と述べたものの、右(一)のファクシミリの時点では、増ページ分に対し、原告が報酬を受けられるか否か、いくら受けられるかについては確定していなかったのである。
(三) そうすると、右(一)のファクシミリの記載は、橋本と出来との間で、ジェマとの関係でやむを得ず生じた増ページ分については、ジェマに責任があると主張して、被告から報酬をもらおうと相談したことを示すものと解することができ、橋本らが意図的に編集ページを増やしたことを示すものということはできない。そして、ほかに原告が意図的に編集ページを増やしたことを認めるに足る証拠はない。
(四) なお、増ページの責任が明確でない場合に、ジェマに責任があると主張して増ページ分の報酬を請求することは、原告の立場としてはむしろ当然の行動であって、信義則に反する行動であるということはできない。
(五) したがって、信義則違反の主張は理由がない。
二 争点2(残存契約期間中の報酬請求の可否)について
1 証拠(甲五、七、一四、二〇、二五、二八の1、三五、乙一二の1ないし3、一三、一六、二五、証人下斗米、原告代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告は、ジェマとの契約に基づき、本件雑誌一号について、二〇〇〇万円(消費税別)のスペース提供料を出版月当月末日に得られることを前提に本件雑誌を創刊することとしたが、ジェマは、被告に対し、平成九年一二月に一〇〇〇万円、平成一〇年二月に一一〇〇万円、同年三月に五〇〇万円の合計二六〇〇万円しか支払わなかった。
(二) 他方、本件雑誌は、創刊号、第二号、第三号、第四号の順に、一五万五五〇〇部、一四万八四〇〇部、一五万一〇〇〇部、一五万八三〇〇部を制作し、九万九二五三部、九万四七六三部、一〇万一四二八部、八万八五六五部の売上げがあって、その実売率は、六四・五パーセント、六四・四パーセント、六七・七パーセント、五六・三パーセントであった。
(三) 右のとおり、本件雑誌は、相当の売れ行きがあり、創刊号については、一定の利益が出たものの、増ページによる経費が増加したため、第二号及び第三号は、ジェマからの入金が予定どおりあったとしても、採算がとれない赤字の状態となった。
(四) そのような経過の中で、被告代表者(角川春樹)は、平成一〇年三月二六日の被告の営業会議において、本件雑誌について「売上げが悪ければ休刊もあり得る」との発言をしたが、その時点では、被告代表者は、まだ、ジェマからのスペース提供料の入金の状況が右(一)のとおりであることは認識していなかった。
(五) 下斗米は、同年五月の連休明けに、被告代表者に対し、ジェマからの入金状況と、既にジェマが倒産状態にあることを伝えた。被告代表者は、本件雑誌の第四号(同年五月二一日発売)の売れ行きの状況を確認した上、同月二六日発表の二、三日前に、本件雑誌を休刊とする旨を決定した。
(六) 右の休刊を発表した「社内回覧」(甲七)には、「一月、三月、五月各発売号を好評のうちに発刊させて頂きましたが、誠に残念ながら、主として商品物流上の問題等により、当面の間、休刊とさせて頂くことになりました」との記載がある。
2 下斗米は、その陳述書(乙二五)において、本件雑誌休刊の最大の理由は本件雑誌の売上不振にあったとし、ジェマのスペース提供料の問題は、替わりの物販業者はいくらでも探し出せたのであるから、本件雑誌の売上げ以上に考慮すべき問題ではないとしている。
しかし、前記1(二)の実売率から、直ちに、本件雑誌の売上げが不振といえるのか疑問がある上、休刊を発表した前記1(六)の文書においても、休刊の原因は「主として商品物流上の問題等」であるとしていること、下斗米は、本件雑誌の休刊を決定したころ、被告とジェマとの間で、売掛金回収のための話合いをしていたとの証言をしていること(証言調書四四ページ)、その当時、ジェマに替わる適当な物販の会社が具体的な候補としてあげられたことを認定するに足る証拠はないことなどの点を考慮すると、本件雑誌休刊の主要な原因は、「商品物流上」の問題にあって、ジェマからの入金が予定どおりにされず、その後の入金の予定が立たなかったことにあると解するほかない(したがって、下斗米の右陳述書の記載は直ちに採用することができない。)。
だが、他方、前記1(三)のとおり、本件雑誌は、相当の売れ行きがあったというものの、増ページによる経費の増加のため、ジェマからの入金があっても赤字の状態となっていたのであり、また、前記1(五)のとおり、被告代表者がジェマからの入金状況を聞いて直ちに本件雑誌の休刊を決定したのではなく、本件雑誌の第四号の売れ行きの状況を確認していることを考慮すると、前記1(三)のとおり、本件雑誌の発行が採算のとれない状態となっていたことも本件雑誌休刊の理由となっていたことは否定できない。
結局、本件雑誌休刊の原因は、主として、ジェマからの入金がなく、その後の入金の予定も立たなかったことにあるが、同時に、本件雑誌の発行自体が採算のとれない状態になっていたこともその原因であったというべきである。
3 被告は、原告に債務不履行ないし信頼関係を破壊する行為があったと主張するので(争点2に対する被告の主張(1) )、その主張を基礎づける具体的事実(争点2に対する被告の主張の(2) ないし(5) )について検討する。
(一) 被告の主張(2) について
原告が意図的に編集ページを増やしたということができないことは前記一5のとおりである(したがって、信義則違反の主張も理由がない。)。
(二) 同(3) について
本件雑誌の売れ行きが不振といえるか疑問があることは前記2のとおりである。被告は対抗誌との比較を主張しているが、対抗誌よりも良い売上げを確保しなければならないことが本件契約上の債務の内容となっていたと認めるに足る証拠はない。
(三) 同(4) について
被告において広告部営業開発課長の地位にあった前川明彦は、その陳述書(乙二二)において、本件雑誌の編集について、被告が主張する問題点の指摘をしているが、他方、他誌(ポップティーン、いっかく千金)の編集長の経験のある古武弥須夫は、その陳述書(甲二四の1)において、右の各問題点について、これを編集上のミスといえるものではないとの見解を示している(原告代表者も、後記のとおりミスと認めた部分以外はミスではないとの供述をしている。)。そして、被告が指摘する編集上の問題点は、見る者の主観によって左右されるもので、これを法的な債務の不履行であると評価することは困難であり、信頼関係破壊の行為であるということもできない。
もっとも、原告代表者本人は、第二号(乙一八)の三四ページに掲載した商品が実際の商品と違うことについて、自らミスと認めているが(平成一一年一〇月一九日の本人調書三、四ページ)、このような編集上のミスが、後記4のとおり継続的契約の性格を有する本件契約解除の原因となる程度の債務不履行ないし信頼関係破壊の行為であると評価することはできない。
(四) 同(5) について
前川明彦は、前記陳述書(乙二二)において、被告代表者が、本件雑誌の表紙の写真の案として、モデル一人のブレストアップの写真を提示してほしいと指示していたにもかかわらず、橋本は、第二号及び第三号については、右の指示に従わなかったとの記載をしている。
右の点についても、本件雑誌の性格(流行通販マガジン)からすると、モデルの着ている服を見せる全身又はそれに近い表紙のほうが適しているとの見解もあること(甲二四の1)、第四号については、ブレストアップの写真が採用されているが(乙二〇)、前記1(二)のとおり、実売率はむしろ落ちていることを考慮すると、橋本が、直ちに右の指示に従わなかったからといって、継続的契約解除の原因となる程度の債務不履行ないし信頼関係破壊の行為であると評価することは困難である。
(五) そうすると、本件契約について、解除原因となるような原告の債務不履行ないし信頼関係破壊の行為があったと認めることはできない。
4 そこで、右1及び2の認定、判断を前提に、本件雑誌休刊の発表による本件契約解除の意思表示の効力について検討する。
(一) まず、本件契約は、原告が被告に対し、本件雑誌の編集業務全般を各号ごとに提供し、被告がこれに報酬を支払うという準委任契約類似の契約であると解され、また、本件契約の有効期間が平成九年八月一六日から平成一二年八月一五日までの三年間であったことは当事者間に争いがないから、右の有効期間を有する準委任契約類似の継続的な契約であるということができる。
(二) また、本件契約の内容を記載した「編集業務委託契約書」(甲六)では、右契約期間中の解除について、「甲乙双方は、それぞれ相手方の承諾を得て本契約を解除することができるものとする。」との条項(一一条)しか設けられていないが、前記一1(一)のとおり、右契約書は、記名・押印がされず、完成されていないため、原告、被告間において、ほかに解除を認めない合意があったということまではできない(なお、原告が休刊の発表後編集業務を行わなかったからといって、解除を承諾したことにはならないし、ほかに右の承諾のあったことを認めるに足る証拠はないから、本件の場合、右の一一条に基づく解除があったと解することはできない。)。
(三) そして、本件契約は右(一)のとおりの準委任契約類似の契約であるが、その契約は、継続的な契約であるから、民法六五一条によっていつでも解除ができるというのは相当ではなく、やむを得ない事由が認められない限り、その有効期間中、解除することはできないと解すべきである。
(四) しかし、本件の場合、本件契約の解除には、次のとおり、やむを得ない事由があったというべきである。
(1) まず、前記2のとおり、本件雑誌の休刊の理由は、ジェマからの入金が予定どおりにされず、その後も入金の予定が立かなかったことと、ジェマからの入金があったとしても、本件の雑誌の発行自体が採算のとれない状態になっていたことにある。また、証拠(原告代表者本人)によると、平成一〇年五月、六月当時、被告自身の財政状態も極めて悪く、管理職の給料の支払が遅れるという事態も生じていたことが認められる。そして、これらの事実を考慮すると、被告が、その経営判断から、本件雑誌の発行という一つの事業を廃止するとの判断に至ったことはやむを得ないというべきである。ある事業を廃止するか、継続するかは、企業として自己の責任においてその維持存続を図っていかなければならない経営上の裁量に属する事柄であって、本件雑誌の発行の前提となっていたジェマからの入金の目途が立たず、また、本件雑誌の発行自体が赤字の状態であった以上、その事業廃止には、恣意的な要素はうかがえず、右の裁量の範囲を逸脱しているということはできない。
(2) 確かに、本件契約は、有効期間の定めのある継続的な契約であるが、委任者が、その契約の前提となる事業の採算がとれず、自らの経営判断によって当該事業を廃止しようとする場合にまで、右の有効期間中、その契約に拘束されるというのは不合理である。特に本件の場合、証拠(乙二五)によると、原告は、被告の営業開発部の一室を借りて事業を開始したこと、その際に、被告に保証金を支払うこともなく、また、什器備品についても、被告から低額で賃借したから、初期投資費用をほとんど負担していないこと、のみならず、被告から準備金一〇〇〇万円の支払まで受けていることが認められるから、右の契約期間中被告が右契約に拘束されるとしなければ原告に投下資本相当額の損害が発生するという事情も認められない。
(3) なお、証拠(乙二五、二八ないし三一)によると、雑誌の発行が赤字で改善の見込みがない場合に休刊になることは一般的なことであることが認められる。本件の場合、本件雑誌が通信販売の商品紹介の機能も有しているため、通常の雑誌とは異なる面があり、そのために三年間という有効期間が設けられたものと解されるが、その通信販売の物販を担当していたジェマ自身がスペース提供料を支払えない状態となっていたのであるから、商品紹介の機能を重視して、赤字であっても発行を継続するべきであるなどということはできない。
(4) 以上の点を考慮すると、被告が本件雑誌の発行という一つの事業を廃止したことはやむを得ないということができ、その事業遂行のために締結された本件契約を将来に向かって解除(解約)することには、やむを得ない事情があったというべきである。
5 もっとも、やむを得ない事由による解除の場合であっても、本件契約のように定期に報酬を支払う契約の場合には、解除までに既に経過した契約期間の割合に応じて報酬の請求ができるというべきである。
原告は、残存契約期間の報酬を請求しているが、そのうちの平成一〇年六月分(同年五月一六日から同年六月一五日までの分)には、休刊発表前の報酬も含まれている。そして、本件契約によれば、原告が、前記第二、二3(四)のとおり既に支払を受けた第四号分は、平成一〇年五月一五日までに支払われるべきもので、翌一六日から本件契約の解除がされた同月二六日までは、次の第五号のための契約期間で、原告はこの間の報酬はまだ支払を受けていないから、その間の報酬を請求することができる。
また、前記一1(八)のとおり、第四号について報酬月額を一二二〇万円(消費税込みで一二八一万円)に増額した以上、第五号の報酬も右金額に従って算定するべきである。すなわち、前記一1(二)ないし(八)のとおり、創刊号から第三号まで毎号増ページが生じ、その都度その報酬が問題となっていたところ、第四号に至って、報酬月額を三二〇万円増額する代わりに、増ページ分はその中でまかなうとの合意に至ったものであるから、その合意は第五号以降にも適用される趣旨であったと解することができる(この点に関する原の陳述書(甲二八の1)の内容は信用することができ、他方、右の認定に反する下斗米の陳述書(乙二五)の記載部分は、右経過事実に照らし、直ちに採用することができない。)。
そうすると、原告の残存契約期間の報酬の請求のうち、第五号の一か月分(平成一〇年六月分)の報酬一二八一万円(消費税込み)につき、平成一〇年五月一六日から同月二六日まで日割りで算定した金額四五四万五四八三円(消費税込み)の支払を求める部分は理由がある(なお、証拠(甲二七、二八の1、三六の1、2、三七ないし三九、証人原信治)によれば、実際に、原告には、第五号の編集のため、相当額の費用が既に発生していたことが認められる。)。
6 以上の検討によれば、原告の残存契約期間の報酬の請求のうち、四五四万五四八三円の支払を求める部分は理由があるが、その余の請求は理由がない。
三 争点3(損害賠償請求の可否)について
前記二のとおり、被告による本件契約の解除(解約)には、やむを得ない事由が認められるから、原告は被告に対し右解除による損害の賠償を請求することはできないというべきである。
四 争点4(弁護士費用に関する原告の主張)について
前記一ないし三に検討したとおり、原告の請求は、第三号の増ページ分に対する報酬(一二一八万円)と、第五号の本件契約解除時までの報酬(四五四万五四八三円)の支払を求める限度で理由があるが、被告がこれを争ったことについて、相当性を欠き違法であるということはできず、また、訴訟追行の難易等の事情を考慮しても、弁護士費用相当額が相当因果関係のある損害であると認めることはできないから、これを被告に請求できる理由はない。
五 結論
以上の検討によれば、原告の被告に対する請求は、一六七二万五四八三円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年七月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言について、同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 都築政則)
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